――これまでアカデミー賞作曲家のハンス・ジマーの下で仕事をされてきたということですが、彼からアドバイスを受けましたか?
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最も苦労したというチェイスシーン |
いえ、本当は聞けばよかったんですけど、その時、彼は忙しすぎて聞きませんでしたね。今回は意見を聞かなかったけれど、いつもはお互いにアドバイスをしあっていますよ。
――今回、このような日本の大作アニメーションに音楽をつけることになって、周囲からはどのように見られましたか?
僕が所属しているプロダクションのメディアベンチャーズ(現・リモートコントロール)から、何人か候補になっていましたが、みんなとても仲のいい仕事仲間だから、僕が選ばれたことをとても喜んでくれました。競争意識やライバル意識などはなく、サポートしあっているという状態です。
――『スチームボーイ』は、非常に長い期間をかけて作っているまれな作品ですが、そのことはどう思われますか?
10年近くも同じものを作り続けてるなんて、とても考えられなかったですね。脚本を最初に読んだときに、1996年――あるいはもっと前だったかも知れないけれど――という数字が書かれているのを見て、とてもショッキングでした(笑)。でも、この映画を見れば、それだけ時間がかかったことがとてもよくわかると思います。
――曲作りにあたって、監督から具体的な指示などはありましたか?
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父と祖父の間で揺れるレイの気持ちを
音楽が表現する |
監督からは、対照的なところ――コントラストを強く出してほしいと言われました。最初のほうは純粋で平和な感じなんですが、物語が進むとだんだん暗くなっていく……といった感じです。あとは、とても複雑な感じにしてほしいという要求もありました。それは、レイとエディとロイドの関係のことでもあるのですが、レイが、ロイドとエディのどちらを信じればいいのかという複雑な心境を音楽で描写しなければならなかったんです。さらに、レイにはヒロイックな感じも与えてほしいという指示もありましたしね。それから、スカーレットに対しては、かわいらしいイメージを与えるようにと言われましたが、彼女は、最初はそんなキャラでもないんですけどね(笑)。
――目標とする作曲家などはいますか?
一番好きな作曲家はエンニオ・モリコーネですね。『アンタッチャブル』の音楽がとても個性的で好きです。
――最後に、『スチームボーイ』のお気に入りのシーンや、一番聴いてほしいところを教えてください。
シーンにしても曲にしても、最後の10分間ですね。監督からは、悲劇的で暗く、全員が死んでしまうのではないかというくらいの曲にしてほしいと言われましたが、その瞬間に、スチームボーイが飛び立っていく。その一連のシーンでは、ダークなところから、一気に気持ちを解放していくというコントラストも表現できました。台詞もそんなにないところなので、ある意味、音楽と音響が演出に最も役立ったところだと思います。
――ありがとうございました。 |