――今回もっとも苦労された点は?
やはり量につきるんじゃないでしょうか。カット数も通常の劇場作品よりも2〜3割多くて、それに比例して作画枚数も18万枚です。普通、どんな大作でも10万枚いくかいかないかというところですから、こんな作品は他にないと思います。
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| スタジオに置かれている動画 |
――村田さんは9年前からずっと関わっていたのですか?
『スチームボーイ』の企画段階から関わっています。スタッフの中では、おそらく一番古いんじゃないでしょうか。この企画はもともとビデオシリーズとして始まっていて、その企画会議から出てますから。94年の初秋くらいですね。
――では10年前の企画段階から関わってきて、完成を迎えた今の心境は?
感無量ですね。ライフワークが終わったようで、ぽっかりと穴があいた感じです。
――10年前の企画段階と、完成版の『スチームボーイ』では、違いはありますか?
違いますね。最初はもっと荒唐無稽というか、スーパーヒーローっぽいものを意識していたんじゃないかと思います。企画が劇場用に格上げになり、少しずつリアルな方向に傾いていった気がします。最初の頃は、19世紀のロンドンの描写も、もっと柔軟な感じでしたね。パラレルワールドのような、もうひとつの19世紀のような。
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| 紙と鉛筆を使って動画を描く |
――デジタル化されて変わったことはありますか?
動画のセクションまではそんなに変わったということはありません。従来通り、紙と鉛筆を使って描いていますから。ただ、作画したものをコンピュータに取り込むので、動画の描き方も色を塗るソフトの仕様にあわせる必要はありました。最初は「レタス」というソフトを使っていましたが、まだその頃の「レタス」では劇場用のクオリティには耐えられなくて、「USアニメーション」という外国のツールに変更し、「USアニメーション」の使い勝手がいまいちなので、次は「トゥーンズ」に変え、さらに制作がサンライズに移った際に、プロダクションI.Gの協力が得られるということで、I.Gが使っている「アニモ」というソフトに変更しました。その度に、ソフトにあわせて動画の描き方も変えていたので、それが面倒くさかったですね。
――『スチームボーイ』が他のアニメと違うところはどこでしょうか?
今はテレビシリーズでもデジタル化されてCGを使うのが当たり前になっていますが、だいたい3Dの部分は明らかに3Dとわかるように見せています。それに対して、『スチームボーイ』は3Dをやりたいわけじゃない。一見すると平面的なものが、カメラが回り込んだり、画面の奥に入り込んだりと、大友さんは「騙し絵」と言っていましたが、2.5Dのような、3Dを使っていても3Dに見えないというところが、他のアニメと違うところですね。
――最後に『スチームボーイ』の見どころを教えてください。
全部です……と言いたいところですが、ひとつあげるなら美術です。普通、アニメーションの美術というと、あくまで背景程度の認識でしょうけれども、『スチームボーイ』の場合は、その背景が非常に緻密に描かれています。実は美術監督の木村さんは学校の同級生で、前からすごいなと思っていましたけどね。そこを見てほしいですね。
――ありがとうございました。 |