――ところで、大友さんとはいつ頃からの付き合いなのですか?
「童夢」は連載が終わっていて、ちょうど「AKIRA」の連載2回目からアシスタントとして入りました。「AKIRA」の連載2回目と「童夢」のコミック用の最後の描き直しが時期的に重なっているのですが、そこで「童夢」の背景を描いてました。アニメーションを初めてやったのは『老人Z』で、電車の中をカメラが進んでいくというシーンの背景動画をやらされたんですよ。アニメに関する予備知識もなにもないのに、いきなり描かされて(笑)。
――大友さんの印象はいかがでしょうか?
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3Dで設定画を起こしたスカーレット号 |
絵を描いている人間にとってカリスマでしたから、近寄りがたい印象があって、会うときは一生で一番緊張したんじゃないかな。実際に会ってみたら、妙に力の抜けている人でしたけどね(笑)。わりとざっくばらんな人でしたけれど、「AKIRA」の第2回目の原稿が上がって、初めて大友さんの原画を見たときは、その緻密さや原稿一枚一枚の情報量の多さにショックを受けましたよ。
――それはアニメーションになっても変わりませんか?
やはり絵の世界をよく知っている人ですから、毎回見事な絵コンテやレイアウトを描くんですよ。例えばレイが飛行メカを手にいれて飛び回るあの一連のコマの取り方や間の取り方、カメラワークはすごいですね。あれは大友さんの独壇場です。
――もっとも大変だったところは?
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大友監督が描いたイメージが
そのまま画になったという飛行シーン |
やはり物量とクオリティですね。下手なものを出しても必ず戻ってくるのはわかっているので、結局ある程度まで完成度を高めなければなりません。そうするとまた時間がかかり、数があがらないということが結構ありましたね。ただ、大変だったというよりは、面白かったですよ。時代背景を踏まえたうえで、縛りがあった物作りをするということは。
――完成して思うところは?
寂しいものですね(笑)。お祭りが終わってしまったという感じで。非常に濃かったですからね。でも、今回はとても人を選びましたね。すごく上手い人でも合わない人はいて、結局去っていったりしました。アニメーターの持ち味を発揮できるという場面ははっきりいって少ない作品ではあったと思うんですよ。大友さんの完成度の高い絵コンテを、どれだけ完成度高く仕上げるかというところに集約されますから。自分の持ち味を活かして絵を描くというところがないんですよね。また、若い人たちは画力が追いつかなくて描けないということもありました。
――『スチームボーイ』の見どころはどこでしょう?
人それぞれだと思いますが、自分はやはりドタバタの冒険物なところとか。あとは、誰も人の話を聞いてないってのがいいですよね(笑)。画に関してはもう文句ないですからね。あとは随所に入っている大友さんの遊びを楽しめるかどうかというところですね。
――大友さんの遊びというのは?
『AKIRA』や『幻魔大戦』でもやっていましたが、モブシーンの中に大友さんの落書きっぽいキャラが結構出てきます。亡くなってしまったマルコ・パンターニという自転車レーサーも出ているんですよ。さすがにこれは、普通ではわからないと思いますけど(笑)。あとは、エレベーターの中でエディが一生懸命自分の夢を演説しているのに、誰もちゃんと聞いてないっていうのとかですね。
――なるほど。
こういうと言い訳みたいですけど(笑)、何度も見ると突っ込みどころも出てくると思いますが、かえってそのほうが何度も見られて面白いと思います。画がちゃんとしているから繰り返しの鑑賞には耐えますし。結局、大友さんも言っていましたが、子供たちに見たこともない世界を見せてあげて、それで楽しんでもらえればそれでいいんじゃないかなと思います。SF映画なんて本来はそういうものですね。ただ、(最近は)これでもかこれでもかと新しいものを見せてきて、結局「もういいよ」と観客から見放されてしまっていますが。だからこそ今回は、そうしたSF的なものへのアンチテーゼというか、逆に古いものを見せて楽しんでもらおうと。例えば『ブレードランナー』なんて、ストーリーだけを追っていれば、単なる古い探偵物の焼き直しみたいな話ですけど、世界観が徹底しているから、20年以上たった今も支持されている。そういうのもありじゃないかなと。
――ありがとうございました。 |